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ファンタジー論


今回はファンタジー論についての座談会なのですが、とても難しいお話しなので、読み通すには根気がいると思います。

●幻奏とリアルファンタジー


まずは用語の導入から。
人工言語アルカと人工世界カルディア。この2つを合わせたものをarxidia(幻奏)というの。



言語は世界の一部だから、アルカはカルディアに含まれるんじゃないの?
なのに2つ足してようやく幻奏っていうのはおかしくない?



言語を作る労力があまりにも大きすぎて、世界を作る労力と同じくらいになってしまったから、この2つを同等のものとみなしているんだよ。
だから2つ足して幻奏って呼んでいるんだ。



なるほど。
このHPのタイトルは『人工言語アルカ』だけど、人工世界カルディアについても説明しているから、実際には「幻奏」がHPのテーマなんですね。
幻奏って、「幻を奏でる」って意味ですよね。要するにファンタジーの一種ってことですか?



あぁ、そうだよ。
ところでファンタジーっていっても色々あるよな。ものすごく詳細に作り込まれたリアルなやつとか、子供が書いたような荒唐無稽なやつとか。
また、作品の舞台が現実の世界か架空の世界かいう分類もある。



現実を舞台にしたものはローファンタジーというの。
架空の世界を舞台にしたものはハイファンタジーっていうんだよ。
ウチの幻奏の場合、ハイファンタジーに属することになるね。惑星アトラスや人工世界カルディアは異世界のお話しだから。



一方、詳細に創り込まれた世界観を持つ作品のことを、ハードファンタジーというのよ。トールキンの『指輪物語』などがそうね。
対して、そこまで世界観を創り込んでいない作品は、ライトファンタジーと呼ばれるわ。事実上、ラノベはこれに分類されることが多いわね。
幻奏はハードファンタジーに属するわ。従って幻奏はハイファンタジーかつハードファンタジーに分類されるというわけ。



なんかラノベがライトって言われると、ちょっと心外な感じね。確かに名前通りなんだけど、なんか軽んじられている感じがするわ。
私、けっこうラノベ好きなんだけど。面白いし感動できるものがたくさんあるよ。



うん。ラノベ、面白いよね。アルバザードでもよく売れてるよ。
ライトとかローっていうのは単なる分類だから、凄いとか凄くないの話じゃないよ。
ハード&ハイファンタジーは世界設定を理解するのが難しいから、読者が気楽に読めないでしょ?
だからとっつきやすいライトのほうが良いって人はたくさんいるよ。



実際よく売れるのはハードよりライトのほうだしな。
肩身が狭いのはむしろ幻奏のほうだ。



とはいえ、制作にかかる労力という観点で見れば、ハード&ハイファンタジーが最もしんどいっていうのは事実だけどね。
ラノベ業界の場合、年に何本も出版しないといけないから、締切りの関係で作者にハード&ハイファンタジーを書かせる余裕がないという事情もあるわ。



ふーん。ともあれ、幻奏(=アルカ+カルディア)はハード&ハイファンタジーに分類されるのね。
ところでアルカ関係のサイトを見ていて、「リアルファンタジー小説」っていうキャッチコピーを見るんだけど、あれは何かな。
ほら、『紫苑の書』のキャッチにも書いてあったでしょ。



ハード&ハイファンタジーの中でもさらに極限までリアリティを高めたファンタジーを指す言葉で、アルカの作者さんが提唱しているみたいだね。



極限までリアリティを高める、かぁ。
つまり、現実の一歩手前ってことね。

●0.999...9 = リアルファンタジー!?



ここから難しいファンタジー論に入る。
アルカの作者はリアルファンタジーを次のように定義している。
0.999...9 = リアルファンタジー



唐突に分からなくなりましたw
なぜ数式ww



ですよねーw
ところで紫苑は、0.9と1ならどっちが大きいと思う?



1に決まってるでしょがw



じゃあ0.999...と1なら?



0.999...っていうのは0.999の後に9が永遠に続くっていう意味ですよね。
そりゃ微かに0.999...のほうが小さいから、やっぱり1のほうが大きいですよ。



紫苑、実は0.999...は1と同じなの。
0.999... = 1



へ、どうして?



0.999...はどこまでも9が続いて行ってるよね。
この数は一体どんな数に近付こうとしているのかな?



そりゃ1に近付いてるんでしょうよ。
いうなれば1が0.999...の目的地なわけでしょ。



そう。そして数学においては、その目的地のことをイコールで表すことができるんだ。
地球ではこれをlimという極限の記号で表現するようだな。



目的地をイコールで表していいっていうのは数学ぽくないっていうか、いい加減な感じがしますね。
私は猜疑心が強いので、まだ納得できません。



えっとね、じゃあこういうのはどう?
まず、0.999...をcとするね。つまり、「c = 0.999...」ってこと。
次にこの両辺を10倍するとどうなるかな。



「10c = 9.999...」になるわね。



今度は両辺からcを引いてみて。
「10c - c = 9.999... - c」になるよね。つまり「9c = 9.999... - c」。
cは0.999...だから、右辺の「9.999... - c」は「9.999... - 0.999...」と書き換えられる。
「9.999... - 0.999...」はちょうど9です。つまり右辺は9。
ところで、左辺はなんだったっけ?



左辺は9cだったわね。一方、右辺は9だから、「9c = 9」。従って「c = 1」。



確か最初に「c = 0.999...」って定義したんだったよね。
そして「c = 1」ということは、つまり?



「1 = 0.999...」か!
うわ、ほんとだ!さすがレイン、わかりやすっ!



――って、なに数学の授業してんのよwファンタジー論でしょうが。
恐らくほとんどの読者がブラウザの戻るを押したと思うんだけど(汗
一体これの何がファンタジー論なのかとアルカの作者さんに問いたい。



気持ちは分かるわよ。でもあとひとつ我慢して。
0.999...9と1だとどちらが大きいと思う?



0.999...9っていうのは9がたくさん続くけど、結局最後は9で終わるんだよね。ということは1とイコールにはならない。
だから0.999...9は1よりすこーしだけ小さい。……当たり?



うん、正解。理解力いいなぁ。
0.999...9は1に極めて近いけど、1ではないんだね。



さて、ここで現実(リアル)の値を1と仮定しよう。
反対に、全く荒唐無稽なファンタジーを0と仮定する。
また、ファンタジーが持つリアリティをxとする。するとxの変域は0<=x<1となる。付いてこれてるか?



なんとか。
ただ疑問なのは、どうしてファンタジーを数式で考えたいのかってことなんですけど。



「よく練られたハイファンタジー」、「詳細に作り込まれたリアルな異世界」、「手の込んだファンタジー」、「ご都合主義な物語」、「造りが雑な作品」。
こういった曖昧な表現では、万言を尽くしてもファンタジーの精度を具体的に捉えることができないだろ。



あー、なるほど。ようやく主旨が分かりました。言葉じゃ曖昧だから、数量的にファンタジーを扱いたいんですね。
要するに、x=0.5くらいの作品をライトファンタジーって呼んで、x=0.8くらいの作品をハードファンタジーって呼びたいわけですね。



そんな感じね。そしてリアルファンタジーはハードの中でもさらに1(現実)に極めて近いものを指すの。
よって上の式「0.999...9 = リアルファンタジー」が成り立つわけ。



なるほどね、ようやく冒頭の意味不明な式が理解できたよ。
やっぱり3人ともアルナ大出身なだけあって、頭良いね。



ちょっと補足をしよう。今しがた紫苑は「言葉は曖昧。数量的にファンタジーを扱いたい。だから数式を用いて説明した」と考えたね。
それも確かに正しい。ただ、俺は数学は言葉だと思っている。人類に最も普及している人工言語だよ。
数学語は物事を論理的に捉える機能に特化している。だからこそファンタジー論を組み立てるのに使用したんだ。



数学語を使ったのはきちんとした意図があってのことだったんですね。
数式であるかのように見せかけて、実は論理的な人工言語で説明していたんですね。

●ファンタジー要素δを最小化せよ



幻奏はリアルファンタジーだから、「0.999...9」に相当する。そしてそれは1より少しだけ小さい。
現実1と上記xとの差分をδとすると、δは作品におけるファンタジー要素を意味する。
このδが小さいほど、そのファンタジーはリアリティがあるということになる。



……幻奏におけるδは何を意味するのかしら。
幻奏のδは1と0.999...9の差分のことですよね。そしてそれは極めて小さい数ですよね。



幻奏におけるδはviidよ。
私たちの世界にはヴィードという地球にはないエネルギーがあるの。
それは魔法の力になったり、悪魔や死神といった存在を演繹するエネルギーなの。



演繹……。
えぇと、要するに「ヴィードってエネルギーがウチの世界にはありますよ。でもそれ以外の部分に関しては地球(現実)と同じですよ」っていう意味?



そう。そしてこの場合、δはファンタジーにおける公理と言い換えてもいい。



ちなみに公理っていうのは、「この件についてはとりあえず正しいと仮定しておこうね」っていう「前提」みたいなもののことだよ。



証明もしないでとりあえず正しいと仮定するって、ずいぶんと乱暴ね。
公理って存在自体がご都合主義な感じがするわ。



鋭い指摘ね。だからこそこう思わない?
そんなご都合主義を徹底的に排他したら、ものすごくよくできたリアルなファンタジーになるんじゃないか、
まるでその架空の世界が実在すると錯覚させるかのような――って。



――あ!
そうか……それがすべての原動力だったのね。



幻奏におけるδは「ヴィードの実在」というただ一点。たったひとつの公理しか採用しない。
だからこそ、幻奏は0.999...9と呼ぶにふさわしいリアルファンタジーなんだよ。



なるほど……。数学的に理論展開した意味が今わかりました。
ん?……ところで、もし公理をひとつも採用せず、δをゼロにした場合はどうなるんですか?
そのほうがもっとリアルになるような気がしますけど。



それは単なるx=1の「現実」じゃないの。ファンタジーの変域を越えてるわ。



あ、そかそか。
うあー!てゆうか、作者さんって絶対変人でしょ!ファンタジーを数式で考えるとか、訳わかんない。



返す言葉もないなw

●幻奏士の指は最初のドミノをもてあそぶ



ともあれ、ヴィードのおかげで幻奏には神様もいるし、魔法もある。悪魔もいるし、死神もいる。
確かレインたちも神様から分化した一族だったよね。地球の人類とは似て非なるものってことか。
最初にヴィードひとつを仮定しただけで、惑星アトラスはだいぶ地球と異なる星になってしまったのね。



万物は因果律に支配されているからね。
最初の「因」が変化すれば、そこからドミノ倒しのように続いていく因果の連続も当然変化する。結果、アトラスは地球とは異なったものになったの。
ドミノの一番最初の牌の倒れる角度がほんの少し違っただけで、2つの世界はそれぞれ少しずつ異なる道へ進んでいったのよ。



この世界の創造主がしたことはただひとつ、最初のドミノを弄んだことだけだ。
その結果、後続するあらゆる因果の数列が、別々の方向へと倒れていった。
幻奏士は最初の牌にしか手を触れなかった。まるで数学的帰納法のようだな。



たったひとつの要素が入るだけで、こんなにもたくさんの違いが生まれるものなんですね……!



とはいえ、地球とアトラスはヴィードというδが有ったか無かったかの違いしかないから、基本的なところはだいぶ似ているの。
例えば私たちアトラス人の体の作りは地球人と同じだし、もし紫苑とアルシェお兄ちゃんが結婚すれば子供もできるよ。



似てるところもあれば似てないところもあるってことだね。
でもさ、ヴィードひとつから魔法やら何やらファンタジックな現象をすべて演繹できるものなのかな。



もっともだな。じゃあヴィードについて論じたdolmiyuという項を幻日辞典で見てみようか。
いかにヴィードから幻奏のファンタジックな側面が導き出されているかが分かるはずだ。



な……魔法の教科書ですか、これ!
辞書の一項目で短編小説か卒論並みの長さがありますよ……。



これが通称「幻日のラスボスdolmiyu」よw



あはは……。確かにヴィードがすべてのファンタジックな現象の根っこになってるみたいですね。
それはそうと、リアルファンタジーって創るのが大変そうだね。たったひとつしかご都合主義を使えないんだから。



そうね。
いかに汎用性のあるδを定義し、それを様々なファンタジー理論に拡張していくかがポイントよ。




公理がひとつという制約の中で、ファンタジー理論を広げていくのは非常に難解な作業だね。
ん……でも待って。逆に言えば、ひとつの公理以外は地球と同じ環境にして良いってことだよね?
なら、リアルファンタジーの現実部分の制作は楽なんじゃない?しかもリアルファンタジーは現実部分の比率がほかのファンタジーより大きいんだから、なおさら楽なんじゃないの?




もしその人工世界がアポステリオリなら、素直に地球から設定をパクればいい。その場合、確かに公理に関係ない部分の作業は楽だろうな。
しかしリアルファンタジーの人工世界はアプリオリだ。たとえ結果的に地球と似た設定になろうが、一度ゼロから世界を構築しなければならない。文化ひとつ取っても単語ひとつ取ってもな。
アルカが文化を踏まえながらどのように単語を創るかという好例を2つ提示しよう。
「記事の作成手順」「造語前の検討」



うわ、これはまた神経質な……。
樟脳は地球にもアトラスにもあるから、樟脳が存在するという結果についてはどちらの世界も同じ。でもアプリオリな人工世界では樟脳の存在を一度ゼロから検討し、構築する。
その一方で、サイコロカレンダーのように、異世界から排他されるものもある。パソコンやケータイがあるアトラスにこんな原始的なものが存在しないなんて意外でした。
ローテクなものを考えなしに異世界に輸入せず、むしろ存在しないことを数学的に証明するとは……驚きです。アプリオリの造語ってこんなに大変なんですね。


まったくもってリアルファンタジーにおける現実部分の制作は楽な作業ではないようですね……。納得しました。
ところでレイン、ほかにもヴィードがもたらした地球とアトラスの違いってあるの?



え?……そうねぇ、ほかには地図とかかなぁ。
アトラスの地図って地球にだいぶ似てるでしょ?



最初のパンゲア大陸の時点で、アトラスと地球はだいぶ似ていたわね。
地軸や自転の方向や風や海流といった条件も似ていたから、パンゲア大陸の分裂の仕方もよく似ていたの。
結果、現在の地球と似たような大陸の配置になっているのよ。



そうなのかー。私はてっきり作者さんが異世界作るの面倒くさくて地球に似せたのかと思ったよ。



作業歴を見る限り、逆だな。
95年に作られた原初の地図を見ると、いかにもRPGに出てきそうな無茶苦茶な形をしていた。それは非常に独創的な地図だったから、ゼロから創るのが面倒ということではなさそうだ。
むしろリアリストとして矛盾点を突かれるのが嫌で、リアリティ溢れる造りにしていくうちに、現在の形に至ったようだ。神経質な人だからな。



00年代前半のアトラスの地図は非常にいい加減だったわね。
03年頃からかしら、リアルに創るようになっていったのは。
それでもまだまだ陸地が多くて人が住めたものじゃない世界だったわね。



陸地が多いと人が住めないの?
土地がいっぱいあるんだから、むしろたくさん住めるじゃん。



紫苑、地球の夜って本当はもっと寒いんだよ。
昼間と比べて温度がせいぜい10℃くらいしか下がらないのは、海のおかげなの。海のほうが陸より冷えにくいからね。
しかも地球の反対側は昼だから海が温められる。その熱は地球の夜側にも影響を与えるの。



もし例えば陸と海の比率が7:3だったら、確実に人類は死滅しているわね。
そういうリアリズムを追求していくと、どうしてもリアルファンタジーは地球と酷似した造りになってしまうのよ。



はぁ、なるほど。
でもなんだかなぁ、ゼロから創るからものすごく大変なのに、でもできた結果が地球と似てますっていうのは、読者からしたらインパクトがないよね。
矛盾だらけでもドーンと異世界っぽく創ったほうが、読者の食いつきはよくない?



確かに商業ベースではそうだな。リアルファンタジーは労多くして得るもの少なしだ。絶対売れないしな。
だから娯楽というよりは、芸術的・学問的な作品といっていい。
で、作者氏はそういうのが好きなんだよ。



はー……。



あんまり変人扱いでも可哀想だからフォローしておくと、利益や報酬が出なくても学問史や芸術史に貢献すること自体は良いことだと思うよ。
なんとはいえ、この規模とクオリティでの試みは人類初のものだからね。



科学の世界だって、陰日向の研究者が数知れずいるものよ。
それ自体は何の役にも立たない基礎研究なんだけど、ほかの研究と組み合わせて商品になったり、あるいはほかの研究の素地になったりすることがよくあるわ。



紫苑の持ってるケータイだって、無数の陰日向の研究者の努力の集積なんだぜ。
たとえ端末に大企業の名前しか書いてなかろうとな。



んー、なんとなく分かりました。

●探した結果、見つけたのは孤独



ところで、幻奏って本当に世界初のリアルファンタジーなんですか。トールキンの『指輪物語』なんかのほうが先な気がしますけど。



リアルファンタジーにはその性質上、アプリオリかつ詳細な人工言語が必要なんだけど、それに適した質と量を持った人工言語は2011年現在、アルカしかないのよ。
アルカのような言語を創るにはパソコンが絶対必要なの。それができるのは現代人だけでしょ。



そっか、トールキンやイェフダーやザメンホフのような人工言語の大家ならあるいはって思ったけど、環境が整ってなくて無理だったのね。
でも現代人に可能なら、同じような言語がアルカ以外にもありそうなものだけど?



そう思ってもう10年以上も日本国内を探し続けたんだがな。書籍はもちろん、ネット上でも同条件のものは見つからなかった。
むろん英語圏のサイトも調べ、掲示板やメールなどでもやり取りした。英語、フランス語、ドイツ語、イタリア語、中国語、韓国語。これら全てで探したが見つかっていない。
「アプリオリ・自然主義人工言語・詳細な作り込み(質)・豊富な資料(量)」。この4つの条件を満たすものがどうにも出てこないんだ。
「単語数は多いがアポステリオリ」とか「単語数も多いしアプリオリだが、一語一語の語法や文化記述が脆弱で、単なる単語帳になっている」とか、惜しいものはいくつか見つかったのだがな……。



うーん……。
ほかの国は探したんですか?



正直、主だった先進国で研究されていなければ、まず無いと見ていいだろう。
現実的なことを考えると、後進国の人間はこのような無駄ともいえる作業をする時間的・経済的な余裕はないケースが多い。
それにもし作ったとしても、小国の人間はたいてい英語で発表してしまう。だから英語圏のサイトを調べた時点でほぼ引っかかるはずなんだ。



あぁ、なるほど。そりゃそうでしょうね。



それにアルカのような規模ならば、本来だったら「人工言語」を意味する単語をその国の言語で検索するだけでトップページに出てきたっていいはずだ。実際このサイトのようにな。
色んな外国語で検索したが、トップに出てくるサイトで条件を満たすものはないし、グーグルの結果を何ページ潜っても出てこなかった。海外の掲示板でも条件を完全に満たすものは得られなかった。



うーん。じゃあ、条件を満たしてはいるけど、単にネットで公開してないだけっていう可能性は?



アルカ自身、ネットで公開したことで大きく進化したのよ。不特定多数の閲覧者や少数のユーザーによって支えられてきたからね。
人工言語のようなマイナーな分野に興味がある人間は少ないから、オフで有志を探すのは大変よ。でもネットでならわりとすぐ見つけることができる。
アルカと同条件のものがあるとしたら、ネットで活動していると考えるのが妥当よ。もしアルカがネットで活動してなかったら、今のようなクオリティにはなっていなかったからね。



そっかぁ……。まぁ人工言語はいくら努力しても一般には理解されないし、お金にもならないもんね。
アルカの場合それを何十年も続けてきたわけだし、しかも常に誰かしら協力者に恵まれてきた。
こういった奇跡的な環境がなければ作れなかったと考えると、同条件のものが世界にいくつもあるわけないのかもしれないね。



実際、作者さんたちはここまで来るのに現時点で20年もかかってしまったの。だいぶ紆余曲折を経たからね。
もし幻奏と同じコンセプトの作品を新たに作ろうと思えば、今度は簡単だよ。アルカやカルディアといった実験例があるからね。
だから、いつかはもっと作り込まれた作品が出てくると思うよ。作者さんはそれを待ってるみたい。だからこうして有益と思える情報は開示しているの。



え……作者さん的にはそれでいいの?
自分たちの20年間の努力を他所の人にたった数年で抜かれちゃったら悔しくない?



「誰もがこの重たい扉を開けたがらないなら自分が開ける。開けたら疲れて自分は歩けなくなるかもしれない(主に腰とか)。でも、後ろの人は通れるだろ」――だそうだ。
第一人者っていうのはそういうものだよ。誰もエジソンの豆電球を今は使わないけど、その名前は残っているだろ。人工言語のようなマイナーな世界でもそれは同じことだよ。



彼は自分が何もしなければ扉が開くどころか、その向こうに何があるのかすら見れないことを知っていたのでしょうね。
何もしないで終わるくらいなら、たとえ扉を通れなかろうと、せめて向こう側の景色だけでも見てやろうと思ったのかもしれないわね。



幻奏唯一のファンタジー要素δであるヴィートという存在。そしてヴィードをあらゆるファンタジー現象に拡張するための魔法理論dolmiyu。加えて樟脳に見る執拗なまでの単語の作り込み。更にはサイコロカレンダーに見る造語前の入念な検討……。
確かに文化と風土が言語に与える影響についてはよく考察しているようね。でも肝心の言語についてはどうなのかしら。アルカは言語学をきちんと反映して創られているのかな。そこが雑だと元も子もないような……。



あ、そっかそっか。こんな話ばかりしてるとそう思ってしまうよな。実は作者氏の大学院時代の専攻は俺と同じで言語学だったんだよ。
高校のときから言語学を独学でやっていて、そのまま大学に入ったそうだ。アルカを作るのに言語学が必要だと思ったようでな。(というか半強制的に仲間に文転させられたのだけど)。言語関連の記事をいくつか紹介しておくよ。
「言語学的に矛盾しない人工言語の作り方」「アルカの認知言語学的考察」



おぉ、なるほどです。言語・文化・風土ともに抜かりなく検討されているようで、安心しました。
さて長くなりましたが、今回のファンタジー論をまとめるとこうなりますね。

●まとめ

1:人工言語(アルカ)+人工世界(カルディア)=arxidia(幻奏)
2:ファンタジーは舞台が架空か現実かによってハイとローに分かれる
3:ファンタジーは作り込みの詳細さによってハードとライトに分かれる
4:ライトが軽い存在というわけではないし、ハードが凄いというわけでもない。ただし、ハードの労力が大きいのは事実
5:幻奏はハード&ハイファンタジー
6:現実を1とし、完全に荒唐無稽なファンタジーを0とし、ファンタジーの持つリアリティをxとすると、xの変域は0<=x<1で示すことができる
7:リアルファンタジーはハード&ハイファンタジーの一種で、数値的には0.999...9で表せる
8:幻奏は世界初のリアルファンタジーである。リアルファンタジーには詳細な質と量を持ったアプリオリな人工言語が必要で、現状その条件を満たす言語はアルカ以外に作られていないことがその根拠となる
9:ファンタジー要素は1とxの差分であるδで示すことができる
10:δはそのファンタジー世界が必要とするご都合主義(=ファンタジー設定)の個数とも考えることができる。換言すれば、δはそのファンタジーが持つ公理の数にも通ずる
11:δが最小のとき、その作品はリアルファンタジーとなる。δが0の場合はファンタジーではなくリアル(現実)であるため、δを0にはできない。つまり最低ひとつのファンタジー設定を設ける必要がある
12:幻奏のδは「ヴィードの存在」ただひとつである。それ以外に関し、惑星アトラスは地球と同様である
13:ヴィードという要素が「因果律のドミノ」の第一牌目に入ったことにより、地球とアトラスのドミノの倒れ方は異なっていった。その結果が魔法、神、死神、レインら神の末裔、大陸の形の異同などである
14:リアルファンタジーは幻奏だけではない。後は貴方が手を動かすだけ

●推薦図書

吉野正敏(2003)『環境気候学』東京大学出版会:文化・風土と気候の関係を把握でき、世界設定の際に役立つ
舟橋三男(1995)『地球の成立―その地質発達史』東海大学出版会:特に5章が有益
渡邊守章(2008)『図説世界文化地理大百科フランス』朝倉書店:幻奏には必須だが、アジア風な国を作りたいときは他の巻を使うとよい
Mairs Geographischer Verlag,Ku(2008) "France Geocenter Atlas":フランスの地図帳。中身は仏語なので多少癖がある。アルバザード制作の際に使用
C. Donald Ahrens(2008)『最新気象百科』丸善:気象の考察に適宜使用
ブルース バックリー(2006)『ダイナミック地球図鑑気象』新樹社:主にanxalの気候を考える際に使用。見やすくてよい
田家康(2010)『気候文明史』日本経済新聞出版社:ilmusの神代の環境を考えるのに参考になる
ジェームス・F・ルール(2005)『地球大図鑑 EARTH』ネコ・パブリッシング:陸地の章が特に有益。見ているだけでも楽しい本
ニール・F. カミンズ(1999)『もしも月がなかったら―ありえたかもしれない地球への10の旅』東京書籍:副題とは裏腹に、むしろアトラスが地球に近付いたきっかけとなった本
デイビッド・モントゴメリー(2010)『土の文明史』築地書館:良著。幻奏制作には前半部分が主に有益
ジャレド ダイアモンド(2000)『銃・病原菌・鉄』草思社:リアルファンタジー作家必読。上下巻
水越允治(1985)『気候学入門』古今書院:文化・風土と気候の関連性が分かる
ストーム ダンロップ(2007)『気象大図鑑』産調出版:気象の考察に適宜使用
サイモン・ウィンチェスター(2004)『世界を変えた地図』早川書房:先駆者というのはだいたい大変なんですよという意味も込めて掲載
ヴィットインターナショナル企画室(2007)『地図にかかわる仕事』ほるぷ出版:人工世界を創る場合は当然モノがないので測量などはできないから、ボトムアップ式に創ることになる。一方、地球での地図の仕事をしている人は逆にモノありきのトップダウン式で創る。逆のアプローチを識ることもまた勉強になる
今尾恵介(2007)『世界の地図を旅しよう』白水社:面白いし、とっつきやすい
榎本秋(2008)『ライトノベル文学論』 pp14-15 NTT出版:ハイファンタジーとローファンタジーの定義について参照した

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